会社創って15年(その5)|株式会社高橋剛商会
ちょっとセンチメンタルに来し方を振り返ってみます
お米づくりの取材で毎月のように真室川町に通っていた頃、
刈り入れの終わった晩秋の真室川で、夕餉を振舞われたことがありました。
そこで衝撃的な出会いをしたのが芋の子汁。
今まで“芋煮”を食べたことは何度もありましたが、
これはものが違う、と心底思いました。
作りは至ってシンプル。
里芋、牛バラ肉、ごぼう、こんにゃくを醤油味で煮込み、
ナメコとネギを落としただけの汁物です。
出汁も薄くコンブ出汁を引いただけですが、
食材の味が素晴らしい。
地元産の和牛のばら肉は全く臭みがなく、
それでいてうま味がたっぷりしみ出ています。
そして里芋のねっとり感。
スプーンですくえるような滑らかさです。
加えて原木から採った大きなナメコのとろみがすごい。
名産のネギは香に加えてシャキシャキした歯ごたえがたまりません。
なるほどこれが山形の芋煮かと、納得した気になりました。
ところがその後山形県内どこへ行っても
真室川の芋の子汁のような芋煮には出会えません。
同じ醤油味でも素材も同じでも、あの時の幸せな味わいに
出会うことはありませんでした。
まして山形芋煮として販売されているレトルト商品は、
まるで違うもののようです。
真室川の芋の子汁を販売したら、お客様が喜ぶのではないか、
と思い立ったのはその後です。
最初に作っていただいたお宅へ相談に行ったところ、
町のイベントなどで販売したことがあるということ。
これはいけると協力を依頼しました。
米屋としては、新米ご飯に芋の子汁に、
さらにもう一品加えて、真室川の晩秋の食卓を再現したいと考え、
選んだのが手作りのお漬物でした。
真室川では食事時以外に自宅を訪問すると、
必ず出てくるのが手作りのお漬物です。
季節によっていろいろあるのですが、
芋煮の季節晩秋ならまず最上カブの甘酢漬けが定番です。
相談したお宅のおばちゃんは、地元でも美味しい作り手として知られる方で、
彼女が作る甘酢漬けは、
甘さと酸っぱさがほどよいマッチングで、
いくらでも食べられるお茶請けでした。
高橋剛さんと相談し、
芋の子汁と漬物の野菜はすべて自分たちで作ることにし、
剛さんの秘伝のたい肥で畑の土壌を整えて、準備することになりました。
結果は11月~12月中旬の一か月半で400セット
(おばちゃんグループの生産能力の限界)を予約で売り切りました。
おばちゃんたちが引退した一昨年まで10年間、
「超簡単真室川芋の子鍋セット」は私どもの晩秋の目玉商品になったのです。